赤ちゃんが欲しいと願うあなたに読んでもらいたい話

将来、赤ちゃんを迎えたいと考える女性は多いはず。 その中の多くの方は妊活に取り組んでいきたいと考えているかと思います。

 

そんな時、妊活が思ったより長くなってしまったらどうしよう…そんなことを考えたことはありませんか?

 

今回は、そんな時のために今のうちから知っておいて欲しいことを、妊活から不妊治療まで多くの症例を手掛ける神谷レディースクリニックの神谷 博文院長と岩見 菜々子先生にお話を伺いました。

 

妊活を考える前から気にして欲しいことは?

岩見 :

未婚の方、まだ妊活に取り組んでいない方にも、「将来妊娠したいときにすぐ妊娠できるためのカラダづくりは意識して欲しいですね。

 

特に月経困難症の症状がある場合は、子宮内膜症の発症率が高いという統計もあり(※1)、注意が必要です。月経困難症を罹患した10人に1人は子宮内膜症のリスクがあり(※2)、さらに20歳までに月経困難症の症状がある場合は、4人に1人の割合で子宮内膜症が見つかっているのです(※3)。また、不妊原因の50%以上が子宮内膜症と関連しており(※4)、子宮内膜症の患者様の50%に不妊があるとも言われています(※5)。子宮内膜症が悪化しないように早期に対処しておかないと、卵巣の子宮内膜症による腫瘍や子宮腺筋症のリスクが出てくることに注意が必要です(※6)。

もし、月経困難症の症状があって鎮痛剤が効かない場合、子宮内膜症が進行している可能性があるので、放っておかずに早いうちに産婦人科で相談をすることをオススメしたいです。

 

そして、月経困難症の他にも性感染症の予防も大切です。特にクラミジアは卵管性不妊の原因として関連があるため、常に予防しておくことが大切です。ちなみにクラミジアは女性の80%、男性も50%が感染しても無症状と言われています(※7)。そのため、感染しても気がつかないまま放置してしまうと、お腹の中で感染が広がり、骨盤内だけではなく肝臓など上腹部にも癒着などが起きてしまうこともありますし、卵管の機能が悪くなることで子宮外妊娠のリスクが上昇します。閉塞すると自然妊娠は極めて難しくなります。クラミジアに感染しないためにも、妊娠を希望しない場合にはコンドームを装着した性行為を行う事で、クラミジアの感染予防をする意識が大切です。

妊活をするに当たり、カラダの栄養は?

岩見 :

妊娠はゴールではなくスタートだと考えています。そのため妊娠しやすいカラダづくりのために栄養に気をつけた生活をしておくことは、妊娠中、授乳期、子供の食生活にも繋がります。

 

最近の報告では糖質を控え、タンパク質を積極的に摂取している方は妊娠率が高かったという報告もあり、タンパク質を意識した食事という事がとても大切です。また、女性はたんぱく質の吸収が男性よりも低いため、色の濃い野菜などビタミンB群と一緒に摂取し、吸収率を上げることもポイントです。

卵子は日々の酸化ストレスにより老化が加速するため、禁煙はもちろんのこと、老化の原因となる活性酸素を除去するために、抗酸化力が期待できる食事、サプリをうまく取り入れ、細胞の老化防止を意識することが重要です。

 

時間が経過した揚げ物やファーストフードばかり食べていると、AGEsなどの糖化最終生成物を除去することができず卵の老化や質の低下につながるので、特に注意してください。

 

実は多くの女性は毎月の月経により 鉄欠乏状態になっています。 貯蔵鉄低下は妊娠率の低下にも繋がるため、 サプリメントなどを利用し 鉄分の補充もおすすめしています。

妊活はどれくらい続けるのが良いの?

岩見 :

日本産科婦人科学会では、妊娠を望み避妊せず夫婦生活があっても1年以上妊娠がない場合を不妊と定義していますが、年齢によっては1年待つという悠長なことを言っていられないケースもあります。

 

この点を考える際にポイントとなるのが、卵子の数や質です。ご存知の方も多いと思いますが、卵子は産まれた時に数が決まり、以降作られることはありません。そして37歳を過ぎると一気に減少の加速がかかりますし、もともと若い方でも卵巣予備能が低いというケースもあります。

 

また、卵子は時間の経過により酸化ストレスを多く受けることになる為、年齢が上昇すると卵子の質が低下し妊娠力はどんどん落ちていってしまいます。

神谷 :

不妊治療のステップアップは、年齢的なものも含めてタイミング療法、人工授精、体外受精などの生殖補助医療などについて夫婦でどこまでの治療をいつから始めたいか、妊娠のためにどこまでの治療を希望されるかということをどの程度考えているかが大切となってきます。

 

例えば、1年後に妊娠率が5%下がる年代の場合、いつどんな治療を選択する事がどの程度の妊娠率を期待できるか、ということを考えるようにして欲しいです。仮に1年間妊活をしてから次のステップに進むと考えた場合、次のステップに進む時には確実に1年前より妊娠率が落ちていることになります。そのため、少しでも早く妊娠したい場合、妊娠率が期待できる年齢で、早い段階からすぐにでも次のステップに入ることも考えてよいと思います。

また、若い世代の人でも、避妊しないで一定期間妊娠しなかった場合は、妊娠できない原因がどこかにある可能性があります。その場合、そのまま妊活を続けていても妊娠するのは難しく、検査で不妊の原因を探るなど、原因究明と原因に応じた不妊治療のステップに進むことで妊娠への可能性が高くなります。

 

若いからといって1年という妊活期間にこだわる必要はないと考えていますので、妊娠したい時に早めに検査を受けることが大切です。

次のステップはどのようなことをしたら良いの?

岩見 :

35歳以下の方の場合、一定期間タイミング法を行ってきて妊娠がないようであれば(不妊治療として行う場合は約4クール実施)、子宮内に精子をいれる人工授精を提案することが多いです。人工授精と聞くと抵抗ある人が多いですが、元気な精子を濃縮して子宮にいれるだけで、その後の受精や着床については自然妊娠と全く変わりがないんです。このことを伝えると患者さんも受け入れやすくなるようですね。

 

この人工授精による妊娠率は、2回で50%、3回で75%、4回で85%以上の方が妊娠できているデータがあります(※8)。ただし、6回までは妊娠率が上がるものの、それ以降になると累積妊娠率は上昇しないという統計があり(※9)、4~6回というのが人工授精の目安となります。

人工授精でも妊娠に至らなかった場合は、ART(生殖補助医療)を行うことを提案しています。ARTとは、卵子や精子を体から取り出し(採精・採卵)、体外で受精させる方法です。受精卵を培養すると細胞分裂して胚になりますが、これを子宮に移植します。年々ARTによる出産は増えてきており、2018年の日本産婦人科学会の報告では1年間で56,961人の赤ちゃんが誕生しています(※10)。15人に1人の割合で、ARTにより出生につながったということになります。

 

そして、複数回受精卵を体内に戻す胚移植を行っても妊娠しない着床不全の患者様には、卵以外に原因がある可能性も考える必要があります。受精卵が着床し、育ち、妊娠中赤ちゃんが育つためには子宮内環境が最適であることも大切です。これを調べる検査がエンドメトリオ検査と呼ばれるものになります。

 

ちなみに、妊娠率に関するこれまでの報告によると、ARTでは受精卵が正常であるだろうとされる良好胚であったとしても、妊娠率は60〜70%です。言い方を変えると、残りの30%は受精卵以外が原因ということが考えられるので、次のステップとして子宮内環境を調べるのも大切です。
※エンドメトリオ検査というのは、EMMA検査、ALICE検査、ERA検査を取りまとめた総称です。

 

エンドメトリオ検査でわかることは何?

岩見 :

まずEMMA検査、ALICE検査では、子宮内のラクトバチルスの割合や慢性子宮内膜炎の原因菌があるかどうかを調べます。腟と違い子宮内は無菌と考えられていたぐらい菌の数が少ないため、一般的な培養検査では子宮内の状態を正確にを把握するのが難しいのです。そのため、子宮内を的確に調べるには次世代シーケンシーであるNGSという機械を用い、細菌のDNAを解析することで調べるEMMA検査やALICE検査が始まりました。

 

子宮鏡検査で子宮内に炎症が疑われたり、腟培養検査などでガードネラ菌など細菌性腟症の原因となる細菌がなかなか消えない方、ARTで良い卵を3回以上戻して着床しない方、流産を2回以上繰り返している方は子宮内環境に乱れがある可能性も考慮する必要があり、当院ではそのような場合にはこの二つの検査を案内しています。

EMMA・ALICE検査を受けたひとの約30%の方は、子宮内にラクトバチルスと呼ばれる善玉菌がやや少ない状態でした(※11)。また約20%の方は、ラクトバチルスが少ない状態に加え、悪玉菌や病原菌が子宮内に認められる状態でした(※11)。悪玉菌や病原菌が多い場合にはこれらの原因菌に応じた抗生剤治療を行い、その後ラクトバチルスが増えるよう、ラクトバチルスが入ったカプセルなどを腟内に投与して改善をはかってもらう治療を行います。抗生剤が不要でラクトバチルスカプセルによる腟内治療のみで改善する方も多くいらっしゃいます。

 

子宮内環境は日々変わっていくので、EMMA検査、ALICE検査で正常な状態なことを確認し、子宮内環境が良い時期に受精卵を子宮に戻せることがこれらの検査のメリットです。そのため、1回きりの検査ではなく、治療後もなかなか妊娠が成立せず、時間が経過した場合や、染色体異常以外の流産で他に原因が不明な場合には、もう一度検査をして子宮内環境の状態を確かめてみるというように活用してもらえると良いですね。

 

ちなみに当院では、40歳以下の患者さんの場合、EMMAとALICE検査を行った約半数の方が検査後の胚移植により早期に継続妊娠され産科にご紹介できています。これまで長い期間妊娠継続できなかったのに、EMMA検査、ALICE検査後に早々に妊娠される方が多数いらっしゃることからも子宮内環境の改善をはかることは、やはり大切なんだということを実感します。

次にERA検査ですが、これは「着床の窓」と呼ばれる、胚移植に最適なタイミングを調べる検査です。

 

着床の窓は排卵日から7日目あたりとされていますが、複数回胚移植を行っても妊娠が成立しない着床不全の患者様ではERA検査を受けた方の約50%の方が、一般的な胚移植の時間から着床の窓にズレがありました(※12)。この検査を受けて、患者様個々の着床の窓にあわせて受精卵を移植してあげることで、無事に着床できた方は多くいらっしゃいます。

新しい試み、着床前検査では
どのようなことをするの?

岩見 :

最近では、「PGT-A検査」という着床前の胚の染色体の状態を調べることができる検査も技術的に可能な時代となりました。現在日本では、この検査は、ARTで直近2回以上着床しなかった方や、頻回に流産があるなど一定の条件を満たしていれば、日本産婦人科学会の臨床研究として受けることが可能です。

 

PGT-A検査とエンドメトリオ検査の組み合わせによって、ベストな状態の胚を、ベストな子宮内に、ベストなタイミングで着床させられる可能性が高まります。年齢が上がって…例えば40歳以上の方の卵は、50%以上が染色体異常のある卵といわれています。流産リスクも年齢とともに高くなるのですが、染色体異常の卵が着床し、流産した場合、次に採卵や移植できるまでに3カ月以上も治療を中断しなければならない事も生じてしまします。そのような時間的なロスを避けられるという点が、PGT-A検査のメリットでしょう。

ちなみに、PGT-A検査をすることによる妊娠率は、どの年代でも約60%程度と言われています。通常は年齢とともに妊娠率は低下、ARTでの着床率が60%を下回る38歳以上の方は、胚盤胞になった場合でも染色体異常の卵の割合が増えてくる傾向が高まるので、流産率を低下させるという観点では、より良い卵を選別するメリットがあると考えています。
神谷 :

言い換えると、38歳未満の女性は、ARTでの妊娠率は50%前後期待できるため、1回も移植をしたことがない方の場合は、PGT-A検査をしなくても早期の胚移植により妊娠継続も期待できます。PGT-A検査は、長期的な予後についてのデータが少ないことや検査のための細胞採取による胚の損傷リスクなどデメリットがないわけではないため、全ての人が検査を受けた方が良いかについては慎重に考えていく必要もあります。

 

ただ、着床する可能性の高い胚を移植できることは、メリットも多く、検査をしないで染色体異常のある胚を戻して流産となった場合、次のチャンスまでお休みの時間が生じてしまうので、「早く妊娠したい」という方にはオススメできる検査だといえます。

いずれにしても、PGT-A検査を受けるためには、しっかりとメリットデメリットを理解した上で選択してもらうことが重要です。メリットとあわせて、胎児側の染色体検査ではなく、あくまで胎盤側からの検査であること、まだ長期的なデータが蓄積されていないこと、胚の変性リスクがあること、胎盤機能不全が絶対に起こらないとは言えないことを認識したうえで判断して欲しいと思います。
岩見 :
また、PGT-A検査はすべての細胞を検査するわけではありません。将来胎盤になる部分の細胞を一部採取し検査するため、検査結果としてグレーな結果が出てくることもあります。そのため検査したとしても、その卵を戻していいのか判断に迷う、もしくは戻して正常に育つかわからない場合もあるため、白黒はっきりつかない検査であることも知っておく必要がありますね。検査結果から移植するかどうかの判断を慎重に検討する必要がある胚の場合には、移植前、妊娠成立後、遺伝カウンセリングを行い、妊娠中も慎重にフォローする事が大切と考えています。

最後に。
ルナルナユーザーへメッセージを!

神谷 :

タイミング法にこだわって排卵日前にタイミングを取るという方が多いですが、より良い妊活をするのであればタイミングにこだわらず、週に数回夫婦生活を行う習慣をつくる方が、健全でよりよい妊活と言えます。この日って言われると男性もうまくいかないことが多いですから(笑)。

 

当院では、妊活教室、不妊教室、体外受精教室と3つの説明会を開いて、ご夫婦に妊活・不妊治療のステップごとに知ってもらう機会を作っています。妊活を考えるなら、どの年代の人も、まずは健康診断の一貫と思って、気軽に検査・相談することから始めるのが良いでしょう。

岩見 :

妊娠したいと思った時が治療のはじめ時とよく言っています。年齢にかかわらず、妊娠したいときには、早めにご夫婦のカラダの状態を確認する、ということが重要になってくると思います。

 

女性も男性も、不妊原因が半々あるので、その原因によって治療方針も変わります。確認しないまま女性側のみが通院・治療を行っていても、男性側に要因があった場合には、全く治療内容が変わることもあり、場合によっては女性単独で受けていた治療の時間が無駄になってしまうこともあります。

 

早期に妊活の結果を出していくのであれば、早い時期からご夫婦で話し合い、妊活の方向性を決めるのが大事だと思いますよ。

プロフィール紹介

プロフィール紹介

神谷レディースクリニック
神谷 博文 先生

●専門医
麻酔科標榜医
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
医学博士号取得
細胞診指導医
●経歴
1973年
札幌医科大学医学部医学科卒業
1976年
札幌医科大学医学部麻酔科学講座
1979年
札幌医科大学医学部第一病理学講座央総合
1982年
国家公務員共済組合連合会 斗南病院
1987年
産婦人科(医師)
1998年
国家公務員共済組合連合会 斗南病院
産婦人科(科長)
神谷レディースクリニックに勤務中

 

神谷レディースクリニック
岩見 菜々子 先生

●専門医
日本産科婦人科学会 認定専門医
日本生殖医学会 生殖医療専門医
日本抗加齢医学会 抗加齢専門医
●経歴
2005年3月
札幌医科大学卒業
2005年4月
初期研修医として札幌社会保険総合病院(現: 札幌北辰病院)、札幌医科大学附属病院に勤務
2007年5月
板橋中央総合病院にて産婦人科後期研修医
2009年7月
札幌医科大学附属病院産婦人科
2011年10月
レディースクリニックぬまのはた 勤務
2013年4月
とまこまいレディースクリニック 勤務
2014年6月
神谷レディースクリニックに勤務中

 

※1:Am J Obstet Gynecol 2010 Jun;202(6):534.e1-6. doi: 10.1016/j.ajog.2009.10.857.Epub 2009 Dec 22.
Early menstrual characteristics associated with subsequent diagnosis of endometriosis
Susan A Treloar 1, Tanya A Bell, Christina M Nagle, David M Purdie, Adèle C Green
※2:平成 16 年度厚生労働科学研究:女性の各ライフステージに応じた健康支援システムの確立に向けた総合的研究より
※3:Laufer MR, et al. J Pediatr Adolesc Gynecol, 1997
※4:Verkauf BS. Incidence, symptoms, and signs of endometriosis in fertile and infertile women. J Fla Med Assoc 1987;74:671–5.
Giudice LC, Kao LC. Endometriosis. Lancet. 2004;364 (9447):789–99.
※5:Counsellor VS. Endometriosis. A clinical and surgical review. Am J Obstet Gynecol. 1938;36:877.
Stilley JAW, Birt JA, Sharpe-Timms KL. Cellular and molecular basis for endometriosis-associated infertility. Cell Tissue Res 2012;349:849–62, doi:
http://dx.doi.org/10.1007/s00441-011-1309-0.
※6:Brosens I, Gordts S, Benagiano G. Endometriosis in adolescents is a hidden, progressive and severe disease that deserves attention, not just compas- sion. Hum Reprod. 2013;28(8):2026–2031.
日本子宮内膜症啓発会議 子宮内膜症 Fact Note より

※7:CDC 2015 STD Surveillance – Chlamydia

※8:神谷レディースクリニックデータより
https://kamiyaclinic.com/flow/iui/
※9: Reprod Infertil 2012 Jul;13(3):158-66.
Pregnancy predictors after intrauterine insemination: analysis of 3012 cycles in 1201 couples
Macizo Soria 1, Gálvez Pradillo, Jorquera García, Peinado Ramón, Alvarez Castillo, Canteras Jordana, Parrilla Paricio

※10:日本産婦人科学会 ARTデータバンク2018より

※11:反復着床不全患者に対する子宮内膜マイクロバイオーム検査 (EMMA) / 感染性慢性子宮内膜炎検査 (ALICE) は妊娠率を向上させるか
川俣美帆, 岩見菜々子, 小澤順子, 山本貴寛, 渡邊恵理, 水内将人, 森若治, 神谷博文
医療法人社団 神谷レディースクリニック
日本受精着床学会雑誌 37(1): 34-42, 2020.

※12:IgenomixJapan提供データ